はじめに:受託加工から自社ブランドへの挑戦
私たち有限会社榊原工機は、愛知県春日井市で精密切削加工を手掛ける町工場です。お客様からお預かりする部品加工案件に日々真剣に向き合いながら、同時に自社のものづくりへの情熱を形にした「SAKAKI Gear」というブランドを展開しています。
多くの方から「機械部品加工の駆け込み寺」として頼っていただいている当社ですが、なぜ自社製品を作り始めたのか。それは、お客様の部品製作で培った技術力と創造性を、もっと多くの方に知っていただきたいという想いからでした。
受託加工の現場で磨き上げた5軸加工技術、複合加工機の活用ノウハウ、そして何より「考えて動く」エンジニアたちの柔軟な発想力。これらすべてを注ぎ込んだのが、SAKAKI Gearの製品たちです。
本記事では、当社がどのような想いでSAKAKI Gearを立ち上げ、具体的にどんな製品を世に送り出しているのか、そして私たちの技術力がどのように製品に活かされているのかを、詳しくご紹介します。
当社の強み:小ロット生産を支える技術力
「考えて動く」多能工エンジニアの存在
SAKAKI Gearの品質を語る前に、まず当社の加工現場についてお話しさせてください。
私たちが最も大切にしているのは、「手のひらサイズの小物部品」の少量生産、そして試作開発への対応力です。1個から対応できる柔軟性、これが当社の最大の武器です。
現場では毎日、こんな会話が交わされています。
「この部品、材料は角材と丸材どっちから削る?」
「5軸加工機なら一発で仕上がるけど、今日は埋まってるな。マシニングと旋盤を組み合わせて工程を組もう」
「特急案件だから、治具の準備も含めて最短ルートを考えないと」
このように、当社のエンジニアたちは常に頭をフル回転させながら、お客様にとって最適な加工方法を導き出しています。単に機械を動かすだけではなく、材料の特性、納期、コスト、すべてを考慮した上で「ベストな一手」を選ぶ。この判断力こそが、当社の技術力の核心部分です。
特に試作開発では、図面を見ただけで「この形状ならこの工程がいい」「この材料ならこの加工順序が効率的」と瞬時に判断できる経験値が求められます。SAKAKI Gearの製品開発においても、この多能工エンジニアたちの知恵が存分に発揮されています。
充実した設備バリエーション
当社が小ロットから中ロットまで柔軟に対応できる理由は、多様な設備を保有しているからです。
主力となるのは、旋盤加工、マシニング加工、そしてワイヤーカット加工の3つです。それぞれの特徴を簡単にご説明します。
NC旋盤加工は、丸い材料を回転させながら削る加工方法で、シャフトや円筒形の部品製作に欠かせません。当社では高精度なNC旋盤を複数台保有しており、微細な寸法公差にも対応しています。
マシニング加工は、平面や複雑な穴あけ、立体的な形状の削り出しに使用します。特に当社が得意とするのは5軸加工機を使った複雑形状の加工で、通常では何度も段取り替えが必要な部品でも、一回のセッティングで完成させることができます。
ワイヤーカット加工は、細いワイヤー電極で金属を切断する技術です。マシニングでは難しい超精密な切断や、硬度の高い材料の加工に威力を発揮します。
これらの設備を組み合わせることで、材質を問わず、金属から樹脂まで幅広い加工に対応できるのが当社の強みです。SAKAKI Gearの製品も、この設備群があってこそ実現できています。
加工困難案件への挑戦
当社は「駆け込み寺」と呼ばれることがあります。それは、他社で断られたような難しい案件や、納期が厳しい特急案件にも積極的に対応してきたからです。
例えば、焼入れ処理後の鋼材への追加工。硬度が上がった材料は通常の切削工具では加工が困難ですが、ワイヤーカット加工を使えば対応可能です。こうした加工のコツや可能性について、当社ではウェブサイトの「プロに聞きました」シリーズで積極的に情報発信もしています。
また、複雑な形状の試作品開発では、5軸加工機と複合加工機をどう使い分けるか、どの工程でどの機械を使うかの判断が品質と納期を左右します。この判断ノウハウの蓄積が、SAKAKI Gear製品の開発スピードと品質につながっています。
SAKAKI Gearブランドの誕生背景
自社技術を形にする挑戦
当社が日々行っているのは、お客様から預かった図面を形にする「受託加工」です。これはこれで大変やりがいのある仕事ですが、ある時、社内でこんな話が持ち上がりました。
「自分たちの技術力を、もっと多くの人に知ってもらいたい」
「毎日部品を作っているけど、自分たちで企画から設計、製造まで手掛けたものを世に出してみたい」
こうした想いから生まれたのが、SAKAKI Gearというブランドです。お客様の要望に応える中で培った創造性と技術力を、今度は自分たちの企画で最大限に発揮する。それが、SAKAKI Gearのコンセプトです。
受託加工では、お客様の設計に基づいて製作しますが、SAKAKI Gearでは企画から設計、加工、仕上げまですべて当社で行います。これは大きなチャレンジでした。
ガレージブランド支援の経験が活きる
実は当社は、SAKAKI Gearを立ち上げる前から、個人の方やガレージブランドの試作開発をお手伝いしてきました。
小規模なブランドが製品を作る際には、多くの困難があります。どこに加工を依頼すればいいのか、見積もりをどう取ればいいのか、材料はどう調達するのか。特に少量生産の場合、対応してくれる加工業者が限られるという問題もあります。
当社は小物部品の少量生産に特化しているため、こうした個人ブランドやガレージブランドの「ものづくりの壁」を取り除くお手伝いを多くしてきました。その経験が、自社ブランドSAKAKI Gearの立ち上げにも大いに役立っています。
「お客様のアイデアを形にする」ノウハウは、そのまま「自分たちのアイデアを形にする」ことにも応用できる。この気づきが、SAKAKI Gear誕生の大きなきっかけとなりました。
「所有する喜び」を提供したい
SAKAKI Gearの製品は、単に「使える」だけでなく、「持つ喜び」を感じていただけるものを目指しています。
工業部品の世界では、機能と精度が最優先です。しかし、自社製品であれば、そこにデザイン性や所有する満足感といった要素を加えることができます。
精密切削加工のプロとしての技術力を活かしながら、趣味性の高い製品を作る。この二つの要素を融合させたのが、SAKAKI Gearブランドです。
SAKAKI PUTTER:5軸加工技術の結晶
開発のきっかけと技術的背景
SAKAKI Gearの代表的な製品として、まず「SAKAKI PUTTER」をご紹介します。これは、当社が誇る5軸加工技術から生まれた高級ゴルフパターです。
開発のきっかけは、社内のゴルフ好きなエンジニアの一言でした。
「自分たちの技術で、最高のパターを作れないだろうか」
5軸加工機は、複雑な立体形状を一回のセッティングで削り出せる最先端の設備です。通常のパターは鋳造で作られることが多いのですが、削り出し(ビレットミルド)で作れば、設計通りの精密な重量バランスと美しいフォルムを実現できます。
この技術チャレンジが、SAKAKI PUTTER開発のスタートでした。
削り出しへのこだわり
SAKAKI PUTTERは、ステンレスや真鍮といった金属の塊から、文字通り「削り出し」て製造しています。
鋳造品との最大の違いは、材料密度の均一性と精度です。鋳造では型に溶けた金属を流し込むため、わずかな気泡や密度のばらつきが生じる可能性があります。一方、削り出しは元々密度の高い材料から不要な部分を削り取るため、内部構造が非常に均質です。
また、削り出しならではの精密な重量配分も大きな特徴です。パターの性能を左右する重心位置を、ミリ単位で設計通りに作り込むことができます。
この削り出し加工は、当社が日々工業部品で行っている精密切削技術そのものです。公差(許容される寸法のばらつき)0.01mm単位で管理する品質保証のノウハウが、SAKAKI PUTTERの打感と安定性に直結しています。
プロの加工技術が生む打感
ゴルフパターにおいて、打感は非常に重要です。ボールを打った瞬間のフィードバック、転がりの安定性、これらすべてがパターの精度とバランスで決まります。
SAKAKI PUTTERの開発では、5軸加工機のプログラミングから治具の設計、切削条件の最適化まで、工業部品の試作開発で培った全てのノウハウを投入しました。
例えば、フェース面(ボールが当たる面)の仕上げ精度は、転がりに大きく影響します。ここでは当社が得意とする精密マシニング技術を活かし、表面粗さを徹底的にコントロールしています。
また、ネック部分の削り出しには複雑な工程が必要ですが、5軸加工機があれば一回のセッティングで完成します。これにより、精度の高い製品を効率的に製造できるのです。
高級品としての価値
SAKAKI PUTTERは、プロの精密加工技術が凝縮された製品として、高級パター市場に位置づけられています。
一般的な量産パターとは異なり、少量生産ならではの丁寧な仕上げと、金属の質感を活かしたデザインが特徴です。ステンレスや真鍮の塊から削り出された本体は、手に取った瞬間にその重量感と品質が伝わります。
当社がこれまで培ってきた「小ロット・高品質」のものづくり哲学が、SAKAKI PUTTERには詰まっています。大量生産品では実現できない、職人技が光る逸品です。
一社完結の対応力
SAKAKI Gearの製品開発において、当社の大きな強みとなっているのが「一社完結」の体制です。
通常、製品開発では複数の加工業者に工程を分けて発注することが多くなります。旋盤加工は旋盤専門業者、マシニング加工はマシニング専門業者、といった具合です。しかし、これでは納期調整が難しく、品質管理も複雑になります。
当社では、旋盤、マシニング、ワイヤーカットの主要な加工をすべて社内で完結できます。これにより、工程間の連携がスムーズで、納期短縮と品質向上を同時に実現しています。
例えば、SAKAKI PUTTER開発では、5軸加工での本体削り出しから、マシニングでの細部仕上げ、必要に応じたワイヤーカット加工まで、すべて社内で行っています。工程を自社で管理できるからこそ、妥協のない品質を追求できるのです。
柔軟な対応とスピード感
当社は「特急案件」への対応力にも自信があります。
お客様から「急ぎで作ってほしい」というご依頼をいただいた際、当社では機械の稼働状況を見ながら、最短で加工できる工程を瞬時に組み立てます。5軸加工機が埋まっていれば、マシニングと旋盤の組み合わせで対応する。この柔軟性が、納期厳守につながっています。
SAKAKI Gear製品の開発でも、この「考えて動く」スピード感が活きています。試作段階で何度も設計変更があっても、すぐに対応できる。この機動力が、製品開発のスピードアップに貢献しています。
知識の共有と透明性
当社は、ウェブサイトを通じて加工に関する様々な情報を発信しています。
「今さら聞けない」シリーズでは、ワイヤーカット加工の基礎知識や、加工法の違いなど、初めて部品加工を依頼する方にも分かりやすい内容をお届けしています。
「プロに聞きました」シリーズでは、焼入れ鋼への追加工の可能性、5軸加工機のトラブル事例、見積内訳の解説など、より専門的な内容を取り上げています。
こうした情報発信は、お客様との信頼関係を築くためでもありますが、同時に当社の技術力を知っていただく機会でもあります。SAKAKI Gearの製品は、こうした豊富な知識と経験を持つプロ集団が作っているのです。
町工場だからこそできるものづくり
「工場っぽくない」クリエイティブな環境
当社の自慢の一つが、その環境です。Googleレビューでは「ホームセンターとお風呂屋さんに挟まれたところにある工場に見えない町工場」と評していただいたこともあります。
1階では金属加工を行っていますが、2階の事務所は木の温もりを感じる空間になっています。木のぬくもりと緑にあふれた環境で、エンジニアたちは日々創造的な仕事に取り組んでいます。
この「工場っぽくない」環境が、SAKAKI Gearのようなクリエイティブな製品開発を後押ししているのかもしれません。単なる受託加工だけでなく、自分たちでアイデアを出し、形にしていく。そんな雰囲気が社内にあります。
あたたかい町工場としての姿勢
当社は「あたたかい町工場」を目指しています。これは単に雰囲気の話だけではありません。
お客様との距離が近く、困りごとがあればすぐに相談できる。納期が厳しい時は、一緒に最善の方法を考える。そんな関係性を大切にしています。
例えば、お急ぎの案件の場合、当社ではメールでの問い合わせよりも、直接お電話いただくことをお勧めしています。電話なら、その場で状況を詳しく伺い、最短の納期をご提案できるからです。
このような細やかな対応は、大手企業にはできない町工場ならではの強みです。SAKAKI Gear製品にも、この「あたたかさ」が込められています。
地域に根ざした製造業として
当社は愛知県春日井市に拠点を置き、地域に根ざした製造業として歩んできました。
所在地は春日井市松河戸町。営業時間は9時から17時(2024年1月より変更)、土日祝日はお休みをいただいています。小さな町工場ですが、地域のものづくりを支える一員として、また日本の精密加工技術を次世代につなぐ担い手として、日々真剣に仕事と向き合っています。
SAKAKI Gearは、そんな当社の姿勢を体現するブランドです。地域の小さな町工場が、高度な技術力でプロフェッショナルな製品を世に送り出す。これは私たちの誇りでもあります。
SAKAKI Gearが示す可能性
受託加工と自社製品の相乗効果
SAKAKI Gearの開発を通じて、当社は多くの学びを得ています。
自社製品を作ることで、製品企画から設計、製造、品質管理、そして販売まで、ものづくりの全工程を経験できます。この経験は、お客様の部品加工案件にも確実にフィードバックされています。
例えば、SAKAKI PUTTER開発で得た5軸加工のノウハウは、複雑な工業部品の試作開発にも応用できます。また、削り出し加工での品質管理手法は、精密部品の製造品質向上に役立っています。
受託加工で培った技術を自社製品に活かし、自社製品開発で得た知見を受託加工にフィードバックする。この好循環が、当社の技術力をさらに高めています。
ものづくりの楽しさを伝える
SAKAKI Gearには、もう一つ大切な役割があります。それは、ものづくりの楽しさを多くの方に伝えることです。
精密加工の世界は、一般の方には見えにくい領域です。しかし、SAKAKI PUTTERのような製品を通じて、「こんな技術で作られているんだ」「削り出しってこんなに精密なんだ」と知っていただけたら嬉しいです。
特に若い世代に、製造業の魅力や精密加工の奥深さを感じてもらいたい。SAKAKI Gearが、そのきっかけになればと考えています。
今後の展開への期待
SAKAKI PUTTERに続く製品として、当社では様々なアイデアを温めています。
5軸加工技術を活かした製品はまだまだ可能性があります。また、ワイヤーカットやマシニング加工の特性を活かした新しいアイテムも構想中です。
小ロット生産の強みを活かし、限定品や受注生産品なども視野に入れています。お客様の声を聞きながら、本当に価値のある製品を一つ一つ丁寧に作っていきたいと考えています。
お客様へのメッセージ
部品加工のご相談も歓迎です
SAKAKI Gear製品をご紹介してきましたが、もちろん当社の本業は精密切削加工です。
1個からの試作、少量から中量の部品生産、特急案件、加工が難しい材料への対応など、お困りのことがあればぜひご相談ください。当社の「考えて動く」エンジニアたちが、最適な加工方法をご提案します。
見積もりのご依頼も、お気軽にお問い合わせください。他社で断られた案件でも、当社なら対応できる場合があります。「駆け込み寺」として、皆様のものづくりをサポートします。
ガレージブランド・個人ブランドの支援
オリジナル製品を作りたい個人の方や、小規模なブランドを立ち上げたい方のご相談も受け付けています。
SAKAKI Gearの開発経験を活かし、企画段階からのアドバイスや、試作開発のサポートが可能です。少量生産に特化した当社だからこそ、小規模なブランドのものづくりをお手伝いできます。
アイデアはあるけれど、どこに相談すればいいか分からない。そんな方は、まず当社にお声がけください。一緒に、あなたのアイデアを形にしましょう。
SAKAKI Gearオンラインショップ
SAKAKI Gear製品は、当社のオンラインショップでご購入いただけます。
SAKAKI PUTTERをはじめ、今後も新しい製品を随時追加していく予定です。精密加工のプロが作る、こだわりの逸品をぜひお手に取ってみてください。
まとめ:技術と情熱の結晶
SAKAKI Gearは、当社の技術力と情熱を形にした自社ブランドです。
日々の部品加工で培った精密切削技術、5軸加工機や複合加工機を使いこなすノウハウ、そして「考えて動く」多能工エンジニアたちの創造性。これらすべてが、SAKAKI Gear製品には注ぎ込まれています。
SAKAKI PUTTERに代表されるように、工業製品レベルの精度と品質を持ちながら、趣味性の高い製品として楽しんでいただけるものづくり。それが、私たちの目指す姿です。
受託加工という本業を大切にしながら、自社製品開発にも挑戦していく。この二つの柱が、当社の技術力をさらに高め、お客様により良いサービスを提供できると信じています。
小さな町工場ですが、大きな情熱と確かな技術で、これからも皆様のものづくりをサポートし続けます。そして、SAKAKI Gearを通じて、精密加工の魅力を一人でも多くの方に伝えていきたいと思っています。
部品加工のご相談も、SAKAKI Gear製品についてのお問い合わせも、いつでもお待ちしています。